このメンバーで誰か抜けるんだったら、
CHOKOはもう終わりだなって

●ソロ活動の話を聞く前に、まずはCHOKO結成の話からお伺いしたいのですが。
「ニルヴァーナというバンドがいまして、僕が知ったときにはカート・コバーンはすでに死んでいたんですけど、それに影響を受けてバンドを始めたんです」
●結成当初から3ピースバンドで?
「いや、最初は4人だったんですよ。で、いろいろメンバーも変わって、CHOKOは結局7年ぐらい続いて。一度、解散みたいな形になったんですけど、それからはずっと3ピースを保ってきたっていう感じですね」
●CHOKOとしてはアルバムを3作リリースして、僕が初めて音源を聴いたのは3作目の『terrorism』('03年)だったんですけど、それから休止に至った理由は何だったのですか?
「単純に、ずっとメンバーチェンジを繰り返していたので、僕の中ではちゃんと活動したメンバーって3回しかないんですよ。結成当初の4人、一度解散して再結成した直後の3人、そして一番最後に活動していた3人。これがちゃんとやってきたCHOKOの流れで。その後に何度も試したんですけど、実質最後となったメンバーが決まったとき、なんかもう、このままメンバーを替えてたらダメだなっていうのがあって。というか、決めないと逆にやれないんじゃないかなって思って。このメンバーで誰か抜けるんだったら、もうCHOKOは終わりだなっていうのをすごく考えてたんですよ。そしたら、案の定ベースが抜けてしまって、ドラマーと相談した結果、休止しようっていう話になったんです」
●ニルヴァーナに触発されてバンドを始めたということは、もちろんバンドへのこだわりも強かったと思うんですけど、それでもやはり休止せざるを得なかったと?
「そうですね。まぁ実際、7年間ずっとメンバーにこだわってやってきたんですけど、結果うまくいかないことも多かった。ただ足並みを揃えたり、うまく付き合っていくことはできたのかもしれないけど、やっぱり音楽しかできないので、それでメシも食っていかなきゃいけないわけだし。そういうことを考えると難しいですよね。だから、バンドという形を一旦やめて、自分のバイタリティ全開でできる状況を作りたいってことで、ソロプロジェクトを視野に入れ始めたのはあると思います」

バンドを始めた当初は、キーボードがいる
バンドなんてクソだと思ってた(笑)

●そもそも、ソロ活動をするに当たってのビジョンはあったのですか?
「CHOKOの頃から変わらないんですけど、コンセプトとしては、ポップな曲が好きだし作るけど、その中にもロックやパンクの精神性を入れていきたいなっていうのがあって。で、今回のアルバムはポップな方向性になっているけど、ちゃんと聴くとロックやパンクも入っているので。
 バンドとソロの違いは、楽曲を好きなようにできるということですよね。結果、今回のレコーディングに関しては、いろんなミュージシャンやディレクターも関わったり。ま、それは意図的にやったことなんですけど、そういう化学反応もこれから楽しみたいですよね。バンドの頃は、“俺ら3人で何ができる?”みたいなことばっか考えちゃってて。それも素敵なことなんだけど、今の僕はそうじゃないから」
●CHOKOに比べると、音楽性がすごく変化していると思うんですよね。ポップになったというか。それは、バンド上で制約されていたスタイルが、ソロになったことでできるようになったということですか?
「それはあると思うんですけど、CHOKOのときもそうで、常に全開でやっているので。だから、ソロだからこういう音楽を始めたっていうのは、僕の中ではないんですけどね。ただ、自然にそうなっていったのはあるかもしれないですね」
●では、ポップであることに対して抵抗はありませんでしたか?
「いや、ありましたよ、すごく。僕はすごくロックが好きだから、“ポップ”っていう響き自体があまり好きじゃないし。でも、俺から生まれてくる音楽って、本当にポップな要素が多くて、味付けは今までポップにしなかったんだけど、今回のレコーディングで完成したのがこういう作品だし。時期的に早かったかもしれないけど、いずれこういうアルバムを作っていたと思うんですよね。ポップアルバムっていうか。それがファーストになっちゃったっていうだけの話で」
●キーボードが入ったスタイルは、前から構想があったわけですか?
「バンドを始めた当初は、キーボードがいるバンドなんてクソだと思ってたんですけど(笑)、実は一番最初に触った楽器って、ギターじゃなくてピアノなんですよ。で、いま好きな楽器はドラムだったりするんですけど、曲の中で一番遊べる楽器って、僕的にはキーボードだったりするんですよね。単体で弾くにはつまらない楽器なんですけど、ジャムったりするときはキーボードが一番好きで。で、今回は宅録の時間が多くて、それでキーボードを入れる機会が多かったんですけど“あ、これかっこいいな”って、そこからアイディアがけっこう生まれて。レコーディングチームにもデモを渡したら“キーボード、いいじゃん”っていう話になったので」
●確かに、2曲目の「ワンダーステップ」も、キーボードがなければ成立しない楽曲ですよね。
「うん、ほんとそう。だってキーボードで作りましたもん(笑)」
●キーボードなんて邪道だ!ぐらい思ってたんだけど、それがいい意味で縛りから開放された。
「そうです。だから、バンドをやっていると、いい意味でバンドの誇りは持てるんだけど、それが悪い方向にも繋がることがあるっていうか。“俺たちはこうだから”って決めちゃうのってメチャクチャかっこいいんだけど、それって逆にメチャクチャかっこ悪い部分でもあって。その中間地点に立ちたいっていうか」

サウンドに関してはすごくシビアなんだけど、
“コレいいな”っていうインスピレーションでやった

●今年2月から3ヶ月連続で、自主レーベルよりデモ音源「emo class」(すでに完売)「digi class」「space class」を限定でリリースしましたが、これらの作品は矢野さん1人で制作したものなのですか?
「ドラムだけ叩いてもらって、あとのギターやベースなどは全部自分で録りましたね」
●で、それぞれの作品の中から、選りすぐられた「TOWER」「ワンダーステップ」「春風」が本作に収録されていると。
「そうなんですよ〜。もう、いいとこ取りでおいし過ぎなんですよ(笑)」
●アレンジも変えて?
「いや、そんなに変えてないです。『ワンダーステップ』は全然違いますけどね。めちゃめちゃ打ち込み系だったんですけど」
●僕は、その「ワンダーステップ」のピアノのイントロでやられちゃったんですけど(笑)、この曲に関して周りからの評価はどうですか?
「イイ感じですね、最初のデモの段階から(笑)。でも、やっぱり自分が思っている感じに聴こえてるんだなって思いましたね。“ポップだね”っていう声が多くて」
●確かに、CHOKOよりもポップになりましたが、メロディが効いているという点では共通していますよね。
「そうですね。でも、実はメロディに関しては全然考えていなくて、自然に出てきたものっていうか。サウンドに関してはすごくシビアなんですけど、“コレいいな”っていうインスピレーションでやってて。“こうしたらこう聴こえる”みたいな思いはすごくあるんですけど、歌詞とかメロディは作り込めば作り込んだだけ伝わらないので」
●1曲目「HITO-YONDE-SCHOOL」の始まりもいいですよね。“人呼んでスクールと申します”っていう矢野さんの声から始まって。
「これ、僕の意見です(笑)。でもずっと反対されてて、1曲目に『ワンダーステップ』、2曲目に『僕らの存在』っていう流れにしたいってずっと言われてて。それがメッチャメチャ嫌で、押し切りました(笑)」

今まで僕が見てた90度のビジョンを、
180度に広げてくれたっていうのはある

●僕が聴いた印象では、サウンドと空気感の調和が印象的だったんですよね。広い空間でレコーディングされているような。でも、それが決して虚無的ではなく、むしろ心地いい感じで。
「それは、ミックスダウンをした“社長”というあだ名の比留間さんがそうさせましたね(笑)。レコーディングの雰囲気ってあるじゃないですか、そういうのをエンジニアが作ってくれたんですよ。それで音も変わってくるから。でも確かに、“空気感”っていうのはわかりますね。僕も聴いてみて、すごく広がる感じがあったし。今まで僕が見てた90度のビジョンを、180度に広げてくれたっていうのはあるんじゃないかな」
●ソロになることで、また新たな発見が多かったんですね。
「うん。で、最初は“作り込んじゃえ”っていう気持ちが強かったので、もっと宅録のイメージで録ろうと思ってたんですけど、“それは違うんじゃねえか? 矢野晶裕”という意見がレコーディングチームから殺到しておりまして。“やだやだ、宅録っぽいのがイィ〜”って言ってたんですけど(笑)、作業していくうちに、それは違うんじゃないかっていう意味がわかってきて。つまり、僕の良さが出るのは、作り込む感じじゃなく生っぽいサウンドだと。だから、“生”というコンセプトには最初反対してたんですよ。“なんかダセェ”みたいな(笑)」
●なるほど。
「でも、カート・コバーンも生っぽい音が好きだったから、“ロックってそうなんじゃねえの?”って聞かれたときに、言い返せなかったんですよね。“じゃあわかった、今回は生っぽい音でやるよ”ってやんや言いつつ、最初はすげぇ普通な感じがするなって思ってたんですけど、そんなヒステリックな感情が冷め止んだときに、一度聴いてみたんですよ。そしたら、純粋に“あぁ、こういうの忘れてたな。これが俺だよね”みたいな感じに思っちゃって。逆に、この作品に気付かされた感覚ですよね。“己が己を知る”みたいな。
 だから、作り込んだアーティスティックな作品もカッコいいんですけど、そうじゃないもののほうがもっとカッコいいんじゃないかって思えた瞬間だったっていう。だからと言って、完全に片方へ寄るわけではなく、宅録っぽいことはしているんだけど、土台となるものは生。で、歌も作り込まなかったので、“タイトルどうしようかな?”って考えたときに、“この作品には感情的な形式が入っている=感情的フォーマット”ってことに気付いたんですよね。精神性で付けた感じです」
●昔、聴いてもピンと来なかったんだけど、しばらくして聴いたら“こんなに良かったんだ!”って思うことってありますもんね。
「そうなんですよ。作業中はやんやん言ってましたけど(笑)、夜中の2時ぐらいに電話で“いやいや、気にしすぎだって。スタッフも頑張ってるから”って、担当のディレクターさんに言われて(笑)。俺も気にしすぎだなって思ったんですけど、歌とか声のトーンが“生”っぽいから、もっとエフェクトをかけてガシガシにしたいって言ってたんだけど、聴いてみたら“あぁ、いいじゃん”って(笑)。今回、ほとんど一発録りなんですけど、宅録っぽい感じがまったくないっていうか。ヘタクソなんだけど、青臭さとかがカッコイイみたいな。そういうアルバムに仕上がったと思うんですよ。だから、そういう意味で、すげぇ“感情的フォーマット”だなぁって」

“うるさいんですけど”って感じるんじゃなく、
より一般的な音楽ファンの人も聴ける作品

●ギター選びのこだわりなどはありますか?
「難しいですね。だけど、ギターを同時に2本弾けたらいいなって、すごく思うんですよ。そしたら、理想のサウンドが出せる。ステレオでLがジャズマスター、Rがストラトだと、僕の理想的な音になるんです。それを、1人でできねぇかなってずっと思ってて(笑)。だから、レギュラーではなくカスタマイズしたギターじゃないと、理想に近くなくて。たとえば、もともとはシングルコイルなんだけど、ハムバッカーに交換したり。ギタリストでもあるから、答えはなかなか出ないですね」
●ギターが違うと当然サウンドもガラっと変わるし、作品としてもまったく違うものになりますもんね。
「そうですね。たぶん、僕が好き勝手やっていたら、もしかしたらイニシャル(※リリース時の初回出荷枚数)がもっと少なかったかもしれないし(笑)。だから、いい作品に仕上がったのはレコーディングチームみんなのおかげで、自分のペースで作業していたら、CHOKOのテイストに近かったかもしれないですね。コアなファンは“かっこいい”って言ってくれるかもしれないけど、一般のお客さんが聴いたときに“何かうるさいんですけど”って感じちゃうんじゃないかなって。この作品は、より一般的な音楽ファンも聴けるから」
●それでは、ギターの聴きどころを教えてください。
「テンションコードをけっこう使ってま〜す(笑)。普通のメジャー/マイナーコードが嫌いです、僕は。なので、少しぐらい不協和音が入っているぐらいが好きです。あと、アンプはフェンダーU.S.A.のツインリバーヴだと思われるんですけど、実はJCを使いました。さらに、エッセンスを足す感じでマーシャルも同時に鳴らしていて。ギターのエッジが立っているのは、後ろでアコギのバッキングが鳴っているからなんですけど、そのおかげでギターが前に出ています」
●こだわりがたくさんあるぞ、という感じですね。
「そうです。“あ、こんなとこにキーボード入ってるんだ”っていう感じですね(笑)。あと、僕は基本的にエフェクターは使っていなくて、ボスのオーバードライブOD-3のみです」
●あとはアンプで調整と。男気のあるセッティングですね。
「ライヴでは、めちゃくちゃエフェクター繋いでるんですけどね(笑)」